オリオンは海神ポセイドンとミノス王の娘エウリュアレーの間に生まれた子供です。 オリオンは父と同じく海上でも陸上でも同じように歩く事が出来ました。 オリオンはとても背が高く海の底を歩いていても頭が海から出る程の巨人でした。 人並み外れた体格と力強さと美しさを持っています。 オリオンの手に掛かれば、どんな凶暴で巨大な獲物も敵ではなく優れた狩人として、太いこん棒を持ち虎やライオンなどの野獣も簡単に倒す事が出来ました。 こうしてオリオンの名は高まりギリシャT番の英雄猟師になりました。 優れていたのは狩猟だけではなく、年頃の娘の前に姿を現せば誰もが見惚れてしまう美青年でもありました。 おかげで彼は気付けば何十人もの妻を有する身となっていたのでした。 そんな彼がある時、キオス島に住むといわれる王女メロペの噂を聞き付けました。 美貌に関する噂を聞けばゼウスが飛んで来そうなものだが、手の早さではオリオンも負けてはいませんでした。 オリオンは早速メロペを妻とするべくキオス島へと渡りました。 しかし今度は街の娘とは格が違う王の娘です。 オリオンの巨大さから忍ぶ恋など出来る筈もなく、オリオンは正々堂々と正面からメロペに求婚して父王オイノピオンの許しを乞いました。 「冗談じゃない。 大切な我が娘を遊び人の巨人に嫁がせて幸せになるものか。 しかも娘と嫁げば跡継ぎはあの巨人… 巨人などに一国の治世を任せる知性などある筈もない」 オイノピオンはオリオンの申し出を無視して娘からも遠ざける様にしました。 しかしオリオンは面会を断られても何度も何度も王の宮殿に足を運び許しを叫びました。 余りのしつこさにオイノピオンはオリオンに面会を許します。 喜んで宮殿に足を踏み入れたオリオンにオイノピオンは厳しい表情をします。 「勘違いをするな。 貴様が余りにもしつこいので娘と結婚させる『条件』だけは教えてやろうと思っていただけだ。 よそ者の貴様は知らぬだろうが、いかなる力・いかなる素性があろうとも、この『条件』を呑まねば娘と結婚する事は許されておらぬのだよ」 「私がこの島に来た時、そのような話は伺いませんでしたが…?」 「黙れ。ならば、どっちにせよ貴様は我が娘を娶る事は叶わぬ。 早々にこの島を立ち去るがよい」 明らかに理不尽なオイノピオンの申し出にオリオンは顔をしかめます。 折角、宮殿にまで入れて後一歩です。 「その『条件』とは何です?」 「この島の何処かに度々、町に姿を現しては作物を荒らして回る野獣がおり、民も私も非常に困っておる。 この獣を退治して貰えればよい。 さすれば娘は貴様に与えようではないか。 狩りを生業とする神の息子ならば造作もあるまい?」 「無論です。 それで、その獣は何処に住んでいるのですか?」 「それが分かっておれば苦労はしない。 この島の何処かに住んでいる事は確かだがな」 「では、その獣はいつ現れるのですか?」 「それも分からぬ。 なにせ神出鬼没の野獣でな。 連日畑を荒らし回わる事もあれば、半年姿を現さなかった事もある」 「分かりました。 では、その獣はどの様な姿をしているか教えて頂きたい」 「残念だか、それも分からぬのだ。 姿を見た者は皆食い殺されているものでな。 おそらく街の民に聞いたとて何一つ手掛かりは得られまい」 オリオンは明らかに無理難題を言われました。 しかしオリオンはここで諦める事なく、王の娘メロペを手中に収めるべく奔走するのです。 父王オイノピオンのいう『神出鬼没の獣』の情報を探しに城下街で聞き込みをしても街の人間は誰も知りませでした。 情報がなければ何も出来ません。オリオンは必死に考えます。 一方、キオス島の中央にそびえる宮殿の玉座の上でオイノピオンは一人ほくそ笑んでいました。 「オリオンに娘を盗られる事はない。 わしも娘を守る為に嘘を付いたものだな。 ふふふ…」 つまりはオリオンには絶対に『野獣』を捕らえる事が出来ない野獣の正体でした。 『野獣』の話は最初から王の作り話であったのです。 実際に存在しない獣を捕らえる事など神にも出来る筈がないのです。 オリオンがどんな獣を献上してきたとしても獣が『野獣』である証拠は何一つなく、王はただ首を横に振ればよいだけなのでした。 そこへ召使い達が一斉に必死の形相で宮殿の中に逃げ込んで来ました。 「王様!オリオンが!」 「まさか殴りこみに来たのではあるまいな?」 「いえ、それが…… ともかく外へ…!」 オイノピオンは宮殿の外に出て彼も驚愕します。 宮殿の外一面に獣、獣、獣・・・ 何百匹いるだろうという、おびただしい量の獣たちの亡骸が文字通り山積みとなって宮殿の前に出現していたのでした。 その山を掻き分けて、もうTつの山が現れました。 オリオンでした。 「な、何だ…!? 貴様これはどういう事だ!!」 さすがにオイノピオンは心から狼狽して声が震えてしまっていました。 そんな王にオリオンは静かに答えました。 「条件である『野獣』について私は殆ど何の情報も得る事が出来ませんでした。 そこで私は考えたのです。 確実に分かっている事は何だろうかと。 これは『王のおっしゃる事には嘘などある筈がない』という前提に立たねばならないのですが…」 一瞬、王が動揺します。 「王の話から分かった事は2つだけです。 条件にある『野獣』が獣である事 そしてこの島の中にいる事 この2二つは絶対に間違いがない筈です。 だから私はこの島に住む全ての獣を狩り尽くして来たのです」 これがオリオンの知恵でした。 いかに正体不明で神出鬼没の野獣とはいえ、獣である事 そしてこの島の何処かにいる事は『王の発言』によって証明されているのです。 この発言に間違いがなければ、島中のありとあらゆる獣を狩り尽くせば、その中の一頭が間違いなく王の言う『野獣』である筈なのです。 王はオリオンを完全に見くびっていたのでした。 彼の知恵を舐めていたのはもちろん、王の無茶苦茶な理論を実証する為に島中の獣を狩り尽くすなど一介の狩人に出来る業ではありません。 「繰り返しますが、これは王の言葉に偽りがなければ…の話です。 王が嘘を付いていたのであれば私はメロペ殿に求婚は出来ませんが、まさか王ともあろう方が詐略を巡らす筈が…ありますまい?」 オリオンは既に王の『野獣』の話が嘘だという事に気付いていながらも、どうやっても言い逃れが出来ない様に島中の野獣を狩り尽くという無茶をやって退けたのです。 既に島中から民が獣の山を見に人だかりを作っていました。 娘を守る為だとはいえ、ここで 「ウソでした」 と認めたら、もはや王としての信頼はありません。 最悪の場合、王の座を奪われて知勇兼備のオリオンが王になる可能性すら見えていました。 「そ、その通りだ…。 約束どおり娘メロペはオリオンに与えよう…」 オイノピオンはこう言うしかありませんでした。 こうしてオリオンは、ようやくメロペと面会する事を許されたのでした。 オリオンは知恵よりも狩りの腕よりも研ぎ澄まされた言葉でメロペと婚約にまで辿り着く事が出来ました。 オイノピオン王がオリオンに勝っている点はただ一つ『王』という地位と権力だけでした。 オイノピオンは娘メロペとオリオンとの婚約を認めはしたものの肝心の結婚式の日取りについては様々な言い訳を付いてはドンドン先延ばしにしていました。 オリオンは終に我慢ならず、無理やりメロペを宮殿から連れ出そうとしました。 このオリオンの行動に対して「攻撃」する正当な口実を得たオイノピオンは[酒の神]ディオニソスに祈りを捧げ叫びました。 「娘をたぶらかした邪悪なるオリオンの意識を奪い去りたまえ!」 その願いは聞き届けられて、オリオンは宮殿からメロペを連れ出そうと一歩外に出た瞬間、何処からともなく漂ってきた芳しいワインの匂いに誘われてT人酔い潰れてしまいました。 それを発見したオイノピオンは神に感謝しつつオリオンが眠っている間に彼の両目を潰してしまったのです。 そして、すかさず 「オリオンが婚約の期日を守らず王の娘に手を出したらしい」 という噂を街に広めさせました。 結果、翌日目覚めたオリオンは最初に両目の光を失っている事に気が付き、次いでメロペも島の住人の信頼も失ってしまっている事に気が付きました。 絶望したオリオンはT人、浜辺で立ち尽くして、この島に居場所がないと悟ると父から授かった海を渡る力でT人キオス島から去って行っきました…。 こうしてオイノピオンは娘の純潔を犠牲にしてもっとも忌むべき敵を島から追い出す事に成功しました。 オリオンは目を潰されてしまった為に耳を当てにしてある島を目指して海を渡っていました。 耳に微かに聞こえる鉄を打つ音 火山の下から聞こえる職人たちの掛け声 オリオンは知ってか知らずか同じ巨人族のキュクロプス達が多数仕事をしているヘファイストスの鍛冶場へと足を向けていました。 鉄と鍛冶の神ヘファイストスが地上で支配しているレムノス島に満身創痍でたどり着いたオリオンは自分の窮状をヘファイストスに訴えました。 ヘファイストスは事前にオリオンとオイノピオンのやり取りを見て知っていました。 オリオンは嘘をついていない事が分かったので彼に一つの神託を与えます。 「俺の弟子のケダリオンをお前の方に乗せて、こいつが教える方向へ歩き続けてみろ。 ケダリオンと俺を信じていれば、きっと潰された両目は元にもどる」 オリオンはヘファイストスに感謝して、神託どおり彼の鍛冶場で働くケダリオンという少年の指示に従い、ひたすら東の方角へと海を渡り続けました。 すると東から上ってきた太陽の光を強く受けて一瞬で両目は光を取り戻した。 両目の光を取り戻したオリオンはオイノピオンへの復讐を考えました。 しかし、そんな事をしてももはやメロペを手に入れる事は出来きないと考えて復讐する事を止めました。 キオス島とは縁を切り、狩猟を生業として気ままに生きるべくオリオンは一路クレタ島に向かいました。 クレタ島は月と狩猟の処女神アルテミスの治める島でした。 アルテミスは月の象徴であり弓の技能に秀で、男性や恋愛に全く興味を示さない女神でした。 そんなアルテミスの統治するクレタ島にオリオンがやって来たのでした。 当然の如くオリオンはアルテミスに惹かれてアプローチをします。 しかし女神はニンフたちから女好きとの噂を聞いただけで姿を見る気もせずに自身も決して姿を見せる事はなくなりました。 オリオンがクレタ島に来てから数日経ったある日、アルテミスは従者のニンフ達と森で狩りをしていました。 獲物はウサギや鹿や猪などでした。 アルテミスはその百発百中の弓でドンドン獲物を狩っていました。 暫くすると奇妙な事に気付きました。 アルテミスが倒した獲物に自分の物ではない矢が必ず刺さっているのです。 アルテミスは次々に獲物を射止めていきます。 そのどれもに矢が刺さっています。 これは神に対する弓の腕比べの挑戦であると解釈して憤ったアルテミスの従者は叫びました。 「愚かなる無礼者よ! ここは女神アルテミス様の神聖なる狩場であるぞ! 姿を見せ非礼を詫びよ!」 すると森の奥から巨大な弓を担いだ巨人オリオンが猟犬シリウスと共に姿を現わしました。 「失礼しました。 私はここで日々の鍛錬と糧を得るため狩りをしていましたが女神様の聖域とはつゆ知らず…。 私の狩る獲物が次々に狩られて行くので、てっきり腕のいい狩人がいるのかと思ったら、急に狩人としての血が騒いでこのようなご無礼を…」 オリオンは恭しく頭を下げて、ひざまづきました。 しかし神に対する非礼の罪は重く、まして相手は厳格な女神アルテミスです。 知らなかった事とは言えオリオンの所業を許す筈がありません。 「…よ、よい。顔をあげなさい。 非礼は許す。 それより、そなた私の従者になる気はないか…?」 アルテミスは初めて恋をしたのでした。 それがオリオンの美形によるものなのか、狩りの腕によるものであったか… アルテミスはオリオンを自分の従者として、以後は狩りに行く度に従わせました。 オリオンも女神の美しさに本気で惚れ込み、主従という関係でありながら相思相愛の関係にあったのです。 アルテミスがオリオンと付き合っているという事は既にクレタ島公認の事実であり、知らぬ者は誰一人いませんでした。 この噂を兄アポロンが聞きつけ憤慨します。 妹が恋愛だと? 相手は女好きの巨人… アルテミスは恋愛を知らぬあまり、道を誤っているのではないか…!? アポロンは直ちにアルテミスを天上に呼び寄せました。 「何でしょう、お兄様」 「お前… 厳格なる神の身でありながら最近恋愛にうつつを抜かしているらしいじゃないか」 兄アポロンの言葉にアルテミスはピクッとしました。 「い、いえ… そんな事はありませんわよ」 「どうかな… 恋は盲目。 神として狩猟の腕が秀でているお前も恋愛にのめり込んでいれば弓の腕が落ちているかもしれん。 試してみるか?」 「喜んで! お兄様が指名したものにピタリと矢を射止めてご覧にいれましょう」 実際アルテミスは毎日オリオンと狩りをしていたので、その弓の腕が落ちているはずもないという自信がありました。 アポロンは内心ほくそ笑み地上の海の一点を指す。 「ならば広大な海に浮かぶ、あの小さな黒い岩をこの天界から射止めてみよ。 そうすれば、もはやいちいち文句は言うまい」 アポロンの指し示した先には黒い岩が大きな海の真ん中にぽつりと浮かんでいました。 「お安い御用ですわ。 狩猟の女神の名にかけて射止めてご覧に入れましょう…」 そういうとアルテミスは神の弓を引き絞り、黒い岩めがけて矢を放ちました。 矢は岩を射抜き静かに沈んで行きました…。 いかに神の弓が強弓だとしても岩を海の中に沈められるはずがありません。 アポロンが岩だといって、アルテミスが岩だと信じて疑わなかったのは自身の海を歩く能力で魚を狩りに行っていたオリオンの頭だったのです。 アルテミスがそれを知ったのは彼女がクレタ島に帰って、海岸にオリオンの死骸が打ち寄せられているのを見つけた時でした。 こうして処女神アルテミスの最初で最後の恋人は、女神自らの手で殺すという悲劇的な結末を迎える事となったのでした。 女神は酷く悲しみ、兄を恨みもしました。 しかしオリオンを死に誘導したからといってアポロンを簡単に責める事は出来ませんでした。 アポロンはアルテミスとは違って神や人間問わず恋愛を好む神で、自分の愛した女性に対しては本気で恋をして愛する熱情家です。 しかし彼が恋をした女性はみな不幸な結末を迎えるという宿命を負っていました。 多くの悲しい恋愛を経験してきた兄アポロンとしては妹が恋愛で苦しむのはこれで最初で最後にしてやりたかったのでしょう。 事実アルテミスはオリオン以外の男性とは恋愛はせず、オリオンの死後も生涯独身を貫きました。 亡くなったオリオンを少しでも自分の傍に置いておきたかったアルテミスは、オリオンの亡骸を彼の猟犬と共に空に打ち上げて星として輝かせました。 巨人の雄々しきベルトが3つの星として輝く冬の星座オリオン座です。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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