アルゴ号のポリシア50人の英雄にはメレアゲロスというカリュドンの王子も加わっていました。
彼は不思議な運命に操られていました。

カリュドン王妃アルタイアがメレアゲロスを生んで間もない頃の事です。

寝所で横になっていた王妃の前に3人の運命の女神モイラが現れました。
モイラはゼウスはテミス(秩序)との間に生まれました。
eクロト
eラケシス
eアトロポス
生まれた人間の運命の糸をつむぐのが役目でした。
王妃が見ると3人のモイラが生まれたばかりの赤ん坊の運命を紡ぎ始めていました。

クロトがせっせと生命の糸を紡いで、ラケシスがその長さを計っていました。
アトロポスが大きな鋏を手にしながら2人に言いました。
「そんなにせっせと紡いだり、計ったりしても無駄です。
その暖炉で燃えている薪が灰になると同時に私は、この鋏で糸を切ってしまいますからね。
そしたら、この子は死んでしまいます」

彼女はその時の気分次第で糸を切っては寿命を決めるのです。

王妃はそれを聞くと慌てて寝床から飛び起きて暖炉で燃えている薪を抜き取って火を吹き消しました。
そして、その薪を自分以外開ける事は出来ないタンスの引き出しの奥にしまい込みました。
封印された薪

「さぁ息子を殺すなら殺してごらん!
あの燃え差しをしまっておく限り、息子はいつまでも死にはしませんからね!」

王妃アルタイアのその言葉に3人のモイラは不気味な笑みを浮かべながら消えて行きました。
王妃はその事は誰にも口外せずに彼女1人の胸に秘めておきました。

それからメレゲロスは何事もなかったようにスクスクとと育ち立派な若者に成長しました。
そしてイアソン達とアルゴ号に乗り込み、コルキスの金羊皮を取りに行くという大冒険を成し遂げて帰ったのです。

ところがメレアゲロスが帰ってみると故郷カリュドンは一匹の猪によって田畑は荒らされて死者も出る騒ぎになっていました。
これはカリュドン王オイネウスが豊年祭の供物を[狩りの女神]アルテミスに捧げるのを怠った為で怒ったアルテミスは獰猛で巨大な猪をカリュドンに放ったのです。

猪の剛毛は槍の如く逆立ちインド象のような牙を持っていました。
生い立った穀物は踏みにじられて葡萄やオリ−ブの樹も荒らされました。
小鳥や小動物の群れは追いまくられました。
牙で突き殺される人も続出して国王は困り果てていました。

メレアゲロス1人で太刀打ち出来るような野獣ではありません。

そこでメレアゲロスはアルゴ号で一緒に旅をした仲間に声を掛けました。
イアソン
テセウス
ヘラクレス
後にトロイ戦争で活躍するアキレウスの父となるペレウスらが快く集まってくれました。

中でもメレアゲロスが遠方に使いをやってまで待ち焦がれていたのが女猟師アタランタでした。

彼女はアルカディアの王女ですが武装した凛々しい姿は女神アルテミスさながらでした。
彼女は狩りの名手で弓矢の腕も獲物を追う足も並の男では太刀打ち出来ないほど優れていました。

しかし彼女は処女神アルテミスを崇拝していたので男と肩を並べる事はあっても心を奪われる事はありませんでした。

そんなアタランに一方的に熱を上げてしまったのがメレアゲロスでした。
アルゴ号で旅をしていた間に彼はすっかりアタランタに惚れ込んでしまい是非、妻にしたいと思っていました。

メレアゲロスはアタランタを歓迎しましたが叔父のペキシッポスは苦言を呈します。

「わしらを女と一緒に狩りに行かせようというのか!
あんな女など男に加わって狩りの腕前を見せるより、機織りでもしていればいいのだ!」

狩りに加わった一行が歓声を上げる中でメレアゲロスは猪の皮を剥ぎ猪の頭と皮をアタランタタに差し出して言いました。

「勇ましい乙女よ
貴女のお陰で猪を退治する事が出来ました。
貴女が最初に傷を負わせたのですから、この名誉は他の誰より貴女が受けるべきです。
この戦利品を受け取って下さい」

他の同士もアタランタの誉れを称えます・

しかしメレアゲロスの叔父が怒りを抑えきれずに叫びました。

「メレアゲロス狂ったか!
猪退治は我々みんなの手柄だ。
そんな女如きに名誉を独り占めされてたまるか!
メレアゲロスが要らぬと言うなら猪の皮は当然最長老のわしの物だ。
恥知らずの女め、お前はどうせその美貌で甥を迷わせたんだろうが我々は決して迷わされはせん」

叔父は弟トケセウスと2人でアタランタを捕まえて、猪の頭と皮を奪い取ろうとしました。

メレアゲロスは自分が侮辱されたかのように憤り、激情にまかせていきなり剣を抜くと2人の叔父を切り殺してしまいました。

こうしてカリュドンの猪狩りは悲しい結果を迎えました。

一行の帰りを城で待っていたメレアゲロスの母アルタイアは弟2人の訃報を聞いて半狂乱になりました。

「息子があんな女の為に私の大切な弟たちを殺すなんて・・・!」

その悲しみは激しい怒りへと変わりました。

「メレアゲロス
お前は私のお陰で今まで生きてこれた。
それが今その身の罪で死ぬのだ。
メレアゲロス
初めはお前を産んであげた。
その次に運命の女神に逆らって火の中から燃え差しを奪い取りお前を救った。
2度お前にあげた生命を返すがよい!
さぁ、お前は死んで弟たちに詫びるのです!」

アルタイアはメレアゲロスが生まれて間もない頃の運命の燃え差しをタンスの奥から取り出すと火を付けて暖炉に放り込んでしまいました。

その頃メレアゲロスは仲間達とアタランタの為の祝杯を上げていました。
すると突然メレアゲロスがもがき苦しみ倒れてしまいました。

不思議な事にメレアゲロスの身体はあの燃え差しと同様に燃えていました。
しかし彼の気強い誇りが苦痛に打ち勝っていました。
彼は血も流さなければ名誉もない死に方をするのを悲しみました。

メレアゲロスは最期の息の下に父や兄弟姉妹と好きなアタランタ。
そして自分をこうした張本人とも知らない母の名前を呼びました。
そして燃え差しと共にメレアゲロスは息絶えてしまいました。

メレアゲロスの生命は運命の女神が操るまま、薪が燃え尽きると共に灰になってしまったのです。

メレアゲロスの母アルタイアは我にかえり、自分の起こした罪に耐えられずに自殺しました。
メレアゲロスの姉妹たちはひたすら嘆き悲しみました。

女神アルテミスは、かつて自分を怒らせたその家の不幸を憐れんで姉妹たちを鳥にしてやったといいます。

後にヘラクレスがエウリリステウスト王の最後の命令を受けて、冥界ケルベレロス犬を生け捕る為に地獄に行った時、メレアゲロスの魂と出会い、彼の妹ディアネイラと結婚する約束をしました。
後にヘラクレスはディアネイラを後妻に迎えるのです。

メレアゲロスが最期まで想いを寄せてアルテミスを崇拝していたアタランタは後に結婚する事になります。



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