女神レトの怒りに触れたニオベ

ゼウスはテ−バイ国の女王アンティオペ−を愛し彼女は身籠りました。
それを知ったアンティオペ−の父ニュケテウスは娘を叱りつけアンティオペ−は祖国を逃げ出しました。
アンティオペ−は逃れた国でエポペウスという男と結婚しました。

父ニュケテウスは兄弟のリュコスにアンティオペ−を捕まえて罰するように言いました。
(そう言い残して自殺という説も有り)

リュコスはエポペウスを殺してアンティオペ−をテ−バイに連れて帰ろうとしました。
その途中でアンティオペ−はキタイロンの山で双生児を生み落としました。
アンフィオンとゼ−トスと名付けられた2人はそのまま山に置き去りにされて羊飼い達に育てられました。

ヘルメス神はアンフィオンに竪琴を与えて奏でる術を教えました。
弟のゼ−トスは鳥を取ったり、狩猟ばかりしていました。
アンティオペ−はリュコスと妻ディルケから酷い仕打ちを受けていました。
彼女は色々と手を廻して捨てたアンフィオンとゼ−トスの所在を探させていました。

自分達に助けを求めて来た母が虐待されている事を知ったアンフィオンとゼ−トスは羊飼いの一派を引き連れて攻め入りリュコスとディルケを殺しました。


テ−バイ国の主となったアンフィオンは守りを堅くする為に城壁を高くする事にしました。
弟のゼ−トスは力自慢で予てからアンフィオンが音楽や耽ってばかりいて身体を鍛練する事を怠っている事を不満に思っていました。
ゼ−トスは自分の腕前を見せつけて、やがて兄に代わってテ−バイの支配者になりたいとさえ思っていたのです。

重い岩を運んで来て城壁を築く段階になるとアンフィオンは自らは手を出さずに竪琴を弾きながら、岩山からテ−バへと歩いて行くばかりでした。
大きな岩々はアンフィオンが歩むに連れてゴロゴロと転がって彼の後を付いて行くのでした。

こうしてアンフィオンは弟をうち負かしてテ−バイ国を安らかに治めていたのです。
そしてタンタロスの娘ニオベ゙を妻にした為に不幸に見舞われてしまいます。

ニオベは小アジアのリディア王タンタロスの娘でギリシア中東部のテ−バイ国のアンフィオン王の妃になりました。
富と権力に恵まれて7人の息子と7人の娘にも恵まれました。
14人の子供達はいずれも美貌と才能に溢れて何かにつけニオベの自慢の種でした。

女神レトとその子供アルテミスとアポロンの祭礼の時でした。
その祭礼ではテ−バイの人々は月桂樹を額に飾って集まり、祭壇に乳香を運んだり祈念を込めたりする事が決りでした。
その群集の中に王妃ニオベもいました。
黄金で着飾ったニオベは傲慢な顔つきをして言いました。

「これは何と馬鹿馬鹿しい行いだ。
何故、お前達が目にした事もないレトは礼拝されるまで敬われて、ここにいる私には何にもないのだろう…。
私の父は神々と食卓を共にした事があるタンタロスだ。
私はゼウスの孫娘ですよ。
それにテ−バイ国は私の夫が治めている。
姿形から言っても私は女神と崇められてもいいはず。
その上、私は7人の息子と7人の娘を持っています。
それでもお前たちは巨人の娘で2人の子供しか生んでいないレトロを拝むのかい?
レトは子供を生む場所もなくて小さいデロス島まで行った宿無しじゃないか。
私にはその7倍の子供がいる」

人々はニオベの仰せに従い額の月桂樹を外して祭礼を途中で止めてしまいました。

女神レトは住居なるキュントス山でアルテミスとアポロンを前にして言いました。

「子供たちよ。
お前達2人を誇りにしてヘラを除いては、どの女神にもひけを取らなかった私が本当に女神なのか?と疑われて来た。
お前たちが庇ってくれないと私は立つ瀬がありません」

その母の言葉を遮るようにアポロンが言いました。

「もうそれ以上おっしゃるな。罰を与える時が遅れるだけですから…」

アポロンとアルテミスは大空を突き進んで雲で顔を隠しながらテ−バイ国の城砦へ降りて行きました。

テ−バイの女予言者マントウはレトの怒りを察知して、ニオベに謝罪するように言いました。
しかしニオベは神を敬うどころか付け上がる一方でした。

テ−バイの城砦の門前に広場があり、ニオベの子をはじめとする数人の子供が遊んでいました。
まず馬に乗っていた1人の子供が天から放たれた矢で射られて死にました。
逃げようとした1人の息子も矢で射られて角力をとっていた2人も同時に矢で射られて死にました。

その惨状を見て助けに入った1人の息子の胸をまた矢が貫きました。
1人残された息子は天に助けを乞うて祈りを捧げていました。
アポロンはそれを聞き届けようとしましたが既に矢が弦を離れていた為に間に合いませんでした。

ニオベは息子達の死骸にすがり付いて泣きました。
ニオベの娘達は喪服をまとい死んだ兄達の骸の側にいました。

するとアルテミスが放った矢が次々と娘達を射殺しました。
たった1人残された末娘はニオベにしがみ付いていました。
ニオベはその娘だけは見逃してくれるよう願いました。
しかし14人の子供は死に絶えてしまいました。

テ−バイ国王アンフィオンも惨状の果てを見て自殺して果てました。
ニオベは息子も娘も夫も全て失った悲しみから気を失ったようでした。
そよ風が吹いても髪の毛も揺れずに頬の色もなくなって眼はすわったまま動きませんでした。
舌は口中の顎にくっついて血管も生命の流れを伝えなくなっていました。
頸も曲がらず腕も動かなくなり、足は一歩も歩けませんでした。
ニオベの全身は石と化して彼女は涙を絶えず流していました。
そのニオベを風が山の上に運んで行き彼女は1つの岩になりました。
その岩からは涙が流れ続けてニオベの尽きぬ悲しみを表していました。

今でもリディアのシュピロス山にあるというニオベの石像は子供達の事を思って涙を流していると言われてます。


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