フリギアのある丘の上に菩提樹と樫の木が1本ずつ低い垣に取り囲まれて立っています。 そこから遠からぬ所に沼があり以前は立派に人が住む陸地でありました。 そこが今は溜まり水をたたえて沢の鳥や鵜の巣窟になっているのです。 かつてゼウスは人間の姿に身を変えて、この土地を見舞った事がありました。 ゼウスの末子ヘルメスも神杖を持って父のお供をしました。 2人は疲れた旅人として一夜の宿を探して家々の戸口に立ちました。 けれど夜遅くにわざわざ戸を開けに起きて来る者などいませんでした。 そして一軒の身分が低い百姓の家を訪ねると老夫婦が2人を快く迎え入れてくれました。 そこは小さな田舎家でピレモンというお爺さんとバウキスという信心深いお婆さんの2人暮らしでした。 この老夫婦は自分達の貧乏を少しも恥とせずに親切に2人の客人をもてなしました。 お爺さんは腰掛けを用意して、お婆さんは2人の為に色々と気を配って設けられた腰掛けの上に海草を詰めた古びた粗末な敷物を置を延べました。 そして、お婆さんは灰の中の石炭をかき出して火を起こし、炉に鍋をかけて料理を始めました。 お爺さんは裏庭に行き新鮮な野菜を取って来て豚肉の燻肉と野菜を一緒に煮込みました。 こうして2人が料理の支度をしている間にゼウスとヘルメスの2人は話し込んで時が経つのを忘れていました。 お婆さんは食卓を据え拭き清めると食事を並べ始めます。 オリーブに酢漬けにした山ぼうしの実と大根とチ−ズ 灰の中で軽く焼いた卵と蒸し肉などが土焼の皿に盛られます。 デザートには林檎と蜂蜜 お酒も出されました。 これは飾り気のない老夫婦の真心からの精一杯の2人の客人への歓迎の持て成しでした。 やがて食事をしている間に幾ら酒を注でも瓶の酒が減らず、逆に増えている事に気付いた夫婦は驚きました。 そして、この2人の客人こそ天上の神々に違いないと悟ります。 老夫婦は慌てて膝を付き、ひれ伏しながら両手を合わせて、この貧しい持て成しを許してくれる様に乞いました。 老夫婦は一羽のガチョウを飼っており、天の神様を崇める為にそのガチョウを生け贄に捧げようと考えました。 しかしガチョウは駆け出し飛び回り、なかなか年寄り夫婦の手に掛かぬうちにゼウスとヘルメスの間に逃げ込んでしまいました。 ゼウスとヘルメスはガチョウを殺す事を止めて言いました。 「察しの通り我々は神だ。 この無愛想な村は神を恐れざる罪で滅ぼさなくてはならぬ。 けれどもお前達二人だけは、その罰は受けなくてよい。 さぁ、この家を立ち退いて我々と一緒に向こうの小山の頂きに来るのだ」 ピレモンとバウキスの老夫婦は大急ぎで仰せに従い杖をつきながら険しい坂を一生懸命登って行きました。 山の頂上までもう少しという所で二人の夫婦がふと麓の方を見下ろすと村は一面の湖と化していました。 ただ一軒だけ自分達の家だけが残されていました。 二人の夫婦が隣近所の人達の不幸を悲しいんでいると、みるみる自分達の古い家が1つの神殿に変わるのを目撃しました。 角々の柱の所には円柱が立ち並びて、茅葺きの屋根は黄色くなって鍍金の屋根に変わりました。 床は大理石になり、扉は黄金の彫刻と装飾で飾り立てられました。 二人が驚いているとゼウスが優しく言いました。 「あっぱれな老人とその連れ合いに似合いの妻よ。 さぁ、お前達の望みを何なりと言ってくれ。 どういう恵みが欲しいかな?」 老夫婦は暫く相談し合い二人の望みを申しました。 「私共は僧侶となって、貴方様の神殿の番人になりたいと存じます。 尚、私共は今日まで互いに仲良く暮らして参ったのでございますから、どうか同時刻にこの世の息を引き取らして下さって、私が生き残って婆の墓を見たり、また婆から私の墓を埋めて貰う様な事が無い様お願い申し上げます」 老夫婦の願いは聞き入れられて二人は生涯、神殿の司祭者として過ごしました。 そして二人共にだいぶ年老いたある日、バウキスはピレモンの身体から木の葉が吹き出しているのに気付きました。 ピレモンも又バウキスが自分と同様に変じている事が判りました。 そうするうちに木の葉の冠が二人の頭を覆い始めました。 二人は話しが出来る間中は別れの言葉を交わしていました。 「さらば我が妻よ。我が夫よ」 二人は一緒にそう言いました。 そして同じ瞬間に樹の皮が二人の口を塞ぎました。 ピレモンとバウキスは永遠にその身が樹に変じてまで仲良く並んでいます。 今でもテュアネ地方に行くと牧童は二人の善良な老夫婦の記しとなっている2本の相並んで立つ樹を人に指示すそうです。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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