罰を課せられたドリュオペ

ドリュオペとイオレという姉妹がいました。

ドリュオペはアンドライモンという人に嫁いで夫と子供と幸せに暮らしていました。

ある日この姉妹が川岸を歩いていた時の事でした。
2人はニンフ達の祭壇に捧げる花環を作る為に花を集めていました。
ドリュオペは大事な子供を抱いてあやしながら歩いていましたが紫色の花をいっぱい咲かせた1本の美しいロ−トス(蓮華)を見つけました。

ドリュオペがその花を少し取って赤ん坊にやったのでイオレも同じく花を取ろうとすると姉が手折った所からポタポタと血が流れている事に気付きました。
このロ−トスこそロティスという美しいニンフがその身を花に変えた姿だったのです。
ロティスは日頃から、ある野蛮な男に付け廻されていたのでロ−トスに身を変じて禍いを回避したのです。

ドリュオペとイオレがその話しを村人から教わった時は、既に後の祭りでした。

ドリュオペは大変な事をしてしまったと思うと空恐ろしくなり、急いでその場を立ち去ろうとしましたが彼女の足は地面に根付いてしまっていました。
足を引き抜こうとしても足の上の方のしか動きません。
そのうち段々とドリュオペの身体は植物と化して行きました。
彼女が身を悶えて髪の毛を引きむしろうとすると手はもう葉だらけでした。

イオレは姉の悲しい運命を見せ付けられながら植物に身を変えて行く姉を遮り止めようと泣きながら幹に抱きついていました。
イオレは何も出来ない自分を責めて自らも植物になりたいとさえ思いました。
そんな時、丁度ドリュオペの父と夫のアンドライモンがその場を通り掛かりました。

アンドライモンが妻のドリュオペの行方を尋ねるとイオレは新しく出来たロ−トスを指差しました。
ドリュオペの父と夫は事情を聞いて、まだ暖かい幹に抱きつき嘆きました。

そのロ−トスにドリュオペの面影として残っているのは、ただ顔だけでした、
彼女の涙は流れて花の上に落ちました。

ドリュオペはまだ話しが出来る間は最愛の人達に話しかけました。

「私には罪もとがありません。
私はこういう運命を受けるべき筈がありません。
誰に害を加えた事もございません。
もし私の申す事が間違っているなら私の葉を日照りで枯らして尽くしても構いません。
幹を伐り倒して焼いてしまって構いません。
さぁ坊やを取って乳母にやって下さい。
坊やが物心が付いて口がきける様になったら母さんは、この皮の中に隠れているのだと教えてやって下さい。
そして私の葉陰の下で遊ばせてやって下さい。
でも、この川岸にはよく気をつけて下さい。
どの草むらも皆、女神やニンフがその身を変えたものだという事を心掛けて花を摘ませない様によく注意して下さい。
では、さようなら。
愛しい夫よ。妹よ。
お父様…
もし、あなた方がまだ少しでも私を可愛いく思ってくれるなら斧で傷付けたり、鳥の群に枝を噛んだり裂いたりさせないで下さい。
私はとても屈めませんから、ここまでよじ登って接吻して下さい。
私の唇に覚えがある限り、坊やに接吻出来る様にずっと差し上げていて下さい。
もう話しが出来なくなりました。
皮が頸まで進んで参りました。
眼も閉じさして下さるに及びません。
皆様のお手を借なくても皮はひとりでに閉じてしまいます」

こうしてドリュオペの唇の動きが止むと同時に彼女の生命は終わりました。
その枝は当分身内の熱を留めていました。

花々と植物と自然を敬う心を忘れて粗末にする者たちへの戒めの神話です。



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