太陽を見続ける向日葵

オケアノス(大洋)の娘でニンフ(妖精)クリュティエは[太陽の神]アポロンに愛されて幸せの絶頂にありました。
そしてクリュティエは、その幸せが永遠に続くものだと信じて疑いませんでした。

ある日アポロンは、いつものように天空を火の馬車で駆けている途中でふと、バビロン(現在のイラク辺り)の王女レクコトエの姿を見掛けました。

アポロンは一目でレクコトエの美しさに魅了されてしまい自らが発する炎よりもさらに熱い恋の炎に身を焦がす様になってしまいました。

ある夜アポロンは一日の仕事を終えた火の馬たちが休んでいる間にレクコトエの母親に姿を変えて彼女の元へ訪れました。

侍女たちを言葉巧みにレクコトエの部屋から遠ざけたアポロンは本来の姿をレクコトエの前で現して彼女への想いを告げました。

クリュティエは嫉妬で狂わんばかりでした。
彼女はアポロンとレクコトエの関係に尾ひれを付けて、ある事ない事を方々に言いふれて回りました。
それはクリュティエの悪意に満ちた中傷でした。

やがてその話はレクコトエの父王の耳にも入りました。
厳格な父はヘリオスの方から言い寄って来たのだと娘レクコトエの説明も聞き入れ様とはせずに地面に深い穴を掘らせて、その中に娘レクコトエを投げ落として生き埋めにしてしまったのです。

急を聞いたアポロンがその場に駆け付けて自らの光で地面に穴を開けました。
そしてレクコトエの顔を見てみると彼女は既に息絶えた後でした。

アポロンは穴の中のレクコトエに神酒ネクタルを注ぎながら叫びました。

「レクコトエ!
今すぐにこの香わしい大気を吸えるようにしてあげるからね!」

するとレクコトエの亡骸は神酒に溶けてなくなり、そこから緑の木の芽が芽生え始めたのです。
やがてその芽は大木となり芳香を放つ香木・かんらん樹になりました。

一方のクリュティエは復讐は果たしたもののアポロンは決して彼女に心を寄せず振り向かず、クリュティエはアポロンの心を2度と取り戻す事は叶いませんでした。

それからのクリュティエは乱れ髪を肩に打ち流して一日中、寒い地面に座って涙に暮れていました。

9日間、何も食べもせず飲みもせず、ただ座っていました。
自分の涙と冷たい露のみが唯一の食べ物でした。

クリュティエは大地に座り続けてアポロンが差し登って天空を駆け渡り、その日その日の軌道を通って日没になるまで、他の物は何も見ないで絶えずアポロンばかりを見ていました。

その間にクリュティエの足は大地に根付き始めてアポロンと同じ色をした一輪の花に身を変えました。

その花の名は向日葵で太陽が毎日の軌道を通っている間中、いつも太陽に向き合う様に茎を回転させています。

向日葵の花言葉は

「あなただけを見つめている」

こうしてクリュティエは向日葵に身を変えてもアポロンへの想いを留めています。




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