エンデミオンとセレ−ネ


初夏の草原で羊飼いの美青年エンデミオンに見守られて羊たちは草を食んでいました。

やがて日が暮れて、無数の星がまたたく下でエンデミオンは寝入っていました。

それは羊に害する物も青年の心の平和を乱す物が何1つない、のどかな風景でした。

その時、天空には白銀の月が架かっていました。

月の形を変える3っの顔持つ[月の女神]セレ−ネです。

セレ−ネは眠ったエンデミオンに目を止めて一目惚れしてしまいました。

セレ−ネはそっと大地に降り立って、この世のものとは思えない美しい姿のエンデミオンの側に座って髪を撫で優しくキスをしました。

「永久にこの人の側にいるにはどうしたら良いのだろう?
死ぬべき人の命は短く終わってしまう…」

永遠の命を持つ月の女神は直ぐ天上に昇って行って大神ゼウスに会いました。

「あそこで眠っている羊飼いのエンデミオンを私に下さいませ。
あの愛らしい姿を永遠に愛したいと思います」

女神セレ−ネは一心に頼みました。

大神ゼウスは女神をからかう様に言い返しました。

「月の女神よ
貴女の愛するのは若く美しい姿のままの青年であろう?
だが、死すべき人間の命は短くて、あっという間に醜い老年が青年を捕らえる事をお忘れか?
女神の愛する者が手足がふしくれ、白髪でしわの寄った腰のな萎え老人であって良いものか。
女神の恋人はいつもしなやかな鹿のように手足の伸びた若人でなくてはならない」

失望して泣き崩れそうになった女神にゼウスが言います。

「では、彼に我々と同じ不老不死を与えよう。
その代わり、いつまでも、あのまま覚める事なく眠ったままの姿にしておく事にする」

月の女神はそれを承知しました。

山の間のくぼ地に広がる草原で、岩に身を持たせ架けて身動きもせず、死んだように永遠に眠っている、絵のように美しいエンデミオンの側へ女神は毎夜月光と共に訪れるのでした。

エンデミオンの穏やかな寝息や胸の鼓動に耳をすまし、柔らかいい黒髪に触れながら女神は一晩中座っていました。
けれども、エンデミオンは一言も口を聞かず、女神の愛に応える事はありません。
女神は愛する恋人の側で切なさ苦しさに何度も溜め息をつく事があります。
そんな時、銀の月光は姿を消して山々や野原は黒一色の暗闇に包まれるのだといいます。


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