ナルキッソスは大変美しい青年で彼の姿を見れば、どんな娘でも心を動かされずにはいられませんでした。 しかし、ナルキッソスの方は目の前にどんな美しい少女がいようが見向きもしません。 美しい娘達に取り囲まれても冷たくあしらう彼の態度に彼女達は惹かれるのでした。 森のニンフ(妖精)達の中で最も美しいエコ−は、彼に一目惚れして後を追い掛け回しても相手にしてくれません。 ある日、エコ−はナルキッソスの事ばかりを考えていて主人である女神ヘラの機嫌を損ねてしまいます。 ヘラが浮気者のゼウスの行方を尋ねた時、ちゃんとした返事もせず余計なお喋りばかりしていたからです。 ヘラは怒り言います。 「余計な事を言うんじゃない。 お前は人に言われた事に返事をすればいいのです。 これからは余計なお喋りが出来ない様に相手の言葉の終わりの文句しか言えない様にしてやる!」 ヘラはエコ−に呪いを掛けました。 それからエコ−は自由に口が聞けなくなってしまいました。 ヘラが言った様にただ、相手から言われた言葉の最後の部分だけを繰り返す事だけが出来ました。 愛しいナルキッソスの後を追い駆けても、話し掛ける事も出来ません。 そんなある日、ナルキッソスが森を訪れて叫んでいます。 ナルキッソスは一緒に狩りに来ていた仲間とはぐれていました。 「誰かいませんか?ここに…」 ナルキッソスが叫びます。 「ここに…ここに…」 ナルキッソスの言葉の終わりの部分を繰り返し叫びました。 それを聞いたナルキッソスが叫びます。 「誰?出ておいでよ」 エコ−も叫びます。 「おいでよ」 ナルキッソスが続けて叫びます。 「出ておいでよ遊ぼう」 「遊ぼうよ」 エコ−も喜んで返事をしながら木陰から姿を現しました。 「なんだ、お前か… お前と遊ぶ位なら死んだ方がマシだ」 ナルキッソス冷たく言い放ちました。 その時、エコ−が言う事が出来たのは 「死んだ方がマシだわ…」 という悲しげな一言だけでした。 エコ−は望みを失い顔を両手で覆いながら、人や獣さえ滅多に通らない山奥のほら穴に身を隠して悲しみに沈んでばかりいました。 エコ−は段々と体が痩せ細り声だけになってしまいます。 一方のナルキッソスは誰も愛そうとはせず、ただ相手の気持を傷付けてしまうだけでした。 この事で遂に復讐を司る神ネメシスの怒りをかいます。 「人を愛そうとしない者は自分自身を愛するがいい!」 そう叫んだネメシス神の呪いはすぐに表れました。 ナルキッソス山奥で鹿を追っていた途中に泉で水を飲もうとして、水に映った自分の姿を見て、たちまち引き付けられてしまいました。 こうして自分を愛する運命を背負ったナルキッソスは人の訪れる事もない深山の泉の淵に座り、水の中の自分を見つめ続けました。 水の中の若者が笑ってくれたと言っては喜び。 一言も返事をしてくれないと言っては泣きました。 ナルキッソスは飲み食いもせず、花がしおれて頭を垂れるように段々弱りながらもそこに座り続けました。 「あぁ…人を愛するという事がどんなに苦しい事か、初めて分かった。 まるで胸が焼けるようだ。 それなのに水に映ったあの美しい姿はどうしても捕まえられない…。 そして、ここを立ち去る事も出来ないのだ。 死だけが僕のこの苦しみを鎮めてくれるだろう」 とうとうナルキッソスは力尽きて泉の側に倒れ込みました。 最後の力を振り絞って微かな声で叫びます。 「愛しい人よ…さようなら」 するとナルキッソスに 「さようなら…」 という悲しげな叫び声が聞こえました。 それは身体はくち果てても愛しいナルキッソスの側まで来ていたエコ−の声でした。 ナルキッソスはエコ−が返した言葉を水の中の若者の声だと信じて死んでしまいました。 ナルキッソスの死に顔は満足そうに微笑んでいたと言います。 心優しい森のニンフ達はナナルキッソスに見向きもされなかった事も忘れて美しい若者を手厚く葬ってやる事にしました。 ところがニンフ達が泉の側に来てみると既にナルキッソスの亡骸はありません。 ナルキッソスが倒れていた場所には美しい一輪の花(水仙)が咲いていました。 人々はその花ナルキッソスと名付けました。 その水仙は泉の方へ顔を向けて、そよ風の度に頷く様に首を振り続けました。 ナルキッソスの名前から、自分の事しか考えずに自分だけしか愛さないナルシシズムの語源が生まれました。 自己陶酔や自惚れの事を指し、その様な人をナルシストと呼ぶ様になりました。 それから後、愛しい人を亡くしたエコ−の魂は森の奥で人の言葉を真似し続けています。 エコ−とは「こだま」の事なのです。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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