セメレの悲劇
【ゼウスとセメレ】

テ−バイの創設した国王カドモスは軍神アレスと女神アフロディテの娘[調和の女神]ハルモニアを妻にしていました。

ハルモニアが身に付けていた物はヘファイストスが作った首飾りと女神アテナが織った長衣。

この夫婦は大変に仲が良くて4人の美しい娘と1人息子に恵まれました。

その娘たちの中の1人セメレに大神ゼウスは心惹かれて毎夜通い詰めました。

セメレも夢うつつの中でゼウスに愛されて彼と交わりました。

ゼウスはセメレの元に訪れる時は毎回違う姿でした。

ライオンや牡牛。
ある時は葡萄の蔦を頭に巻いた美青年の姿。

薄っすらとした意識の中でセメレは自分の相手が大神ゼウスである事。
これから身篭る子が神である事を悟りました。

そして一方で不安感もこみ上げました。

セメレが神の子を身篭り懐妊した事は容易に侍女たちには信じられない出来事でした。

しかしセメレの相手がゼウスである事は真実だったのです。

この2人の関係は正妻ヘラの知るところになりました。
そして嫉妬したヘラは、かつてカドモスの乳母ベロエに扮してセメレの前に現れました。

「どうしました?王女様。
巷に流れる意地悪い噂が元ですか?
貴女の恋人が山から降りて来た荒くれ男にも関わらず、オリンポスに住む神であると吹聴しているとの噂ですよ」

「でも不死の神である事は間違いなのよ」

不安げに呟くセメレにヘラはすかさず、けしかけました。

「通って来ている者がゼウスなら、天上の光を身に付けて来るはずですよ。
そしてヘラの元に通う時と同じ様に王者の威厳を備えて来て欲しいと言いなさい」

セレメはベロエ扮するヘラに言われて益々、不安になりました。

そしてセメレは、その夜に訪れたゼウスに言いました。

「たった1つだけ望みを叶えて下さい」

「ステュクスのに流れに誓って望みを聞き叶えよう」

V《ステュクスの流れ》
冥界にあるステュクス河の事。
日本の三途の川と同じ。
命を懸けて誓う事と同義な事でした。

「今度来る時はヘラ様の元に通う時と同じ天上の光を身につけた姿で来て下さい」

ステュクスに賭けた誓いは神と言えども必ず守らなければならない事でした。
そして人間の身で光り輝く神を見たら、たちまち灰になってしまうのです。

ゼウスは[運命の女神]が織り上げた残忍な網と妻ヘラの復讐の手を感じました。

そしてゼウスは困惑してセレメの言葉を撤回するように説得します。
しかしセメレは聞きませんでした。
彼女はとにかく身篭った相手が確かにゼウスであると言う確信が欲しかったのです。

ゼウスはT度オリンポスに引き返して、改めて神の姿で雷鳴をとどろかせ戦車に乗ってセメレのいるカドメイアにある宮殿を訪れました。

目もくらむ程のゼウスの威厳を目撃したセメレは叫びました。

「私は本当にゼウス様の花嫁なのだわ。
あの雷光こそがその証!!」

セメレが叫んだ後に彼女の身体は灰と化して燃え尽きました。

セメレのお腹の中にはゼウスの雷光を逃れた六ヶ月になる胎児がをゼウスは拾い上げると自分の大腿の中に埋め込んで縫い付けました。

ゼウスの大腿の中で育ち後に生まれた子が[葡萄と酒の神]ディオニソスです。



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