ペンテウスとアクタイオン
【八つ裂きにされるペンテウス】

ゼウスの姿を直視してその身を焼き滅ぼしてしまったセメレの死後、ゼウスは彼女の体内から身篭っていた6ヶ月の胎児ディオニソスを取り出すと成長して誕生するまでの間、自分の大腿の中で育てました。

その後、誕生した幼いディオニソスは人間界の乳母夫婦に育てられますが女神ヘラの迫害を受け続けていました。

女神ヘラは乳母たちを発狂させて自殺に追い込み、幼いディオニソスを天涯孤独の身にしようとしました。

この時、発狂したのはディオニソスの亡き母セメレの姉妹のイノでした。

ディオニソスは幸いな事に父ゼウスによって救い出されてエチオピアの山奥にかくまわれます。
そこで山羊の姿に変えられて森のニンフ達に育てられるのです。

ディオニソスはスクスクと成長して神としての名声も高まりました。

セメレ亡き後にも嫉妬していたヘラは、ディオニソス自身を発狂させてしまいます。
発狂したディオニソスは自分が誰だか分からないままに世界を放浪する事になります。
狂い死んでしまいそうだったディオニソスを救ったのはクロノスの妻レイアでした。
彼女はディオニソスの体を清めその狂気を取り去ってしまうと同時に彼の神の力を倍化させてあげます。

すると何処からともなくディオニソスの周りに彼の信者たちが集まって来ました。

ディオニソスは故郷テーバイに帰るまでに信者たちと共に自分の名前を広める事にしました。

ディオニュソス教という宗教は実在しました。
狂気に満ち満ちた宗教で信者達の殆どは女性でディオニソスの為に酒を飲み、狂気をはらみ体を捧げる事で悟りを開きました。

この宗教を広めたのはディオニソス自身でテーバイまでに着く迄に彼の信者は膨大な数に膨れ上がっていました。

途上、ディオニソスの信者達を軽蔑・冒涜した者は尽く八つ裂きにされたのでした。

ディオニソスが故郷テーバイに到着後もレイアから授かった力で直ぐに信者が集まり、たちまちテーバイにも多くのディオニュソス信者が出現しました。

しかしテーバイの人間でT人だけ、ディオニュソスに腹を立てていた若者がいました。
彼の名はペンテウス。
彼はディオニュソス教を邪教と見なして町の人にも決してディオニソスに近づかぬよう触れ回っていました。

しかし神の力は人間などの力でどうする事も出来る筈がありません。
ペンテウスの注意など聞く者などおらず、信者は増すばかりでした。
しかもペンテウスの母親までもが信者となり信仰の祭りの中で発狂してしまったのです。

これに怒ったペンテウスは実力行使に踏み切り、災いの元であるディオニソスを地下牢に投獄したのでした。
人間たちの常識からすれば母を狂わされた事に対する正当な復讐の正義でした。

これで信仰対象にして教主であるディオニソスを失った信者達は自然と瓦解して行く筈でした。

しかしペンテウスは重大な3つの事を見落としていました。

c投獄した相手が神であった事
その行動が人間の理にかなっていようとも神には通用しない事でした。

c神が人間の法や理に服さなければならない道理は神々の中には存在しない事でした。

c投獄しただけで神を封じ込められると思い込んだ事も致命的な過ちでした。

そしてペンテウスがディオニソスを投獄できたのは、ただ彼が王という身分にあったからだけでした。

カドモスの孫にして当時のテーバイ王であったペンテウスはディオニソスを地下牢に投獄してしまったのです。

ペンテウスにとっての災いの元はディオニソスではなく、既に彼の体内を絶えず流れている先祖からの呪われた血だったのです。

投獄中のディオニソスは何も語らず大人しくしていました。

それにも関わらずディオニソス教団の狂信的な信者達の数は一向に減る様子はなく逆に増えてきている様でした。

「このままではいかん…
教主が狂信の源でないのなら、信者達を惑わせているものは人ではなく行為。
どんな祭りが行われているのか実際この目で確かめに行ってやろう」

しかし普段民衆の前に姿を見せ続けている王がそのままの姿で行っては、例え狂信者達から見ても直ぐに正体がバレてしまいます。

祭りの様子を確認する為にペンテウス王はディオニソス教の大多数を占める女性に変装して、祭りへともぐり込む事に決めました。

しかし肝心の祭りが何処で行われているのか分からないペンテウスは、ディオニソスを牢から解放して鎖に繋ぎながら尋問するとディオニソスはあっさりと答ました。

「祭りはキタイロン山のとある場所で行われている」

しかもディオニソス自らが鎖に繋がれたまま、その場所まで案内するとまで申し出たのです。

ペンテウスはディオニソスを連れてキタイロン山へ向かいます。
ディオニュソス教の女信者達に疑われないよう女装して山を登って行きました。
押し黙ったままのディオニュソスに案内されて、やがてペンテウスは山の中腹の小高い丘に到着しました。

「ここだ。
ここで祭りが行われている」

ディオニソスはペンテウスにやっと聞こえる位の小さな声で言ました。

「ここでだと?」

ペンテウスが辺りを見渡します。
自分とディオニソス以外の人影は全く見えません。

「誰もいないではないか」

「だが本当だ。
ここで祭りは毎晩行われている。
嘘だと思うなら、そこの木に登ってもう一度辺りを見回してみろ。
女信者たちの姿が見える筈だ」

鎖に繋がれたディオニソスは腕を上げて丘に立つT本の大木を指差しました。

ペンテウスも素直に大木から見渡せば、茂みに隠れている者や山を登ろうとしている者達を見つける事が出来るかもしれないと思いました。

ペンテウスはディオニソスの差した大木によじ登り下を見回そうとした途端

「我が信者達よ!
神の敵がこの木に登っておるぞ!!」

今までボソボソと喋っていたディオニソスが突然テーバイの国全土に響き渡るような大声を上げました。

その声を聞くと同時にペンテウスはディオニュソスが言った通りに信者達を発見する事が出来たのです。

ふもとだけではなく、何百何千という数の女信者達がキタイロン山のあらゆる方向から、この丘の大木に殺到して来る光景が見えたのです。

あっという間にペンテウスの大木は倒されてペンテウスは信者達の中心に振り落とされました。
逃げ場を失ったペンテウスはディオニソスのもうTつの言葉を思い出しました。

「ここで祭りは毎晩行われている」

その言葉が紛れも無い真実だと悟った瞬間でした。

そして真っ先にペンテウスの母アガウエ−がペンテウスに飛び掛り、他の女狂信者達と共に八つ裂きにされ殺されました。

テーバイの始祖カドモスにはディオニソスに歯向かい八つ裂きにされたペンテウス以外にもうT人孫がいました。

カドモスの息子アリスタイオスとアウトノエの間に生まれた息子アクタイオンです。

同じ孫でもペンテウスが玉座に就いてテーバイを治めていたのに対して、アクタイオンは王族という概念にこだわるのを嫌って毎日一人で森で狩りをしていました。

アクタイオンは自分で手なづけた猟犬たちと一緒に鹿や猪を追い回して平穏な暮らしを楽しんでいたのです。

アクタイオンの猟犬は非常によく訓練されており、主人の思っている事を主人が命令するより先に実行する事が出来ました。

主人が鹿に狙いを定めれば囲んで鹿の動きを封じて、主人の背後から忍び寄る猛獣がいれば吠えて知らせる。
あわよくば主人の矢を待たず噛み殺してしまう獰猛で凶暴な猟犬でした。

アクタイオンにとっては素晴らしい狩りの相棒でした。

この日もアクタイオンは猟犬たちと共に獲物を追い回していました。

「いつも同じ場所で狩りを続けていても、お前たちは退屈だろう。
たまには、もう少し奥に行って大物を狙ってみるか」

アクタイオンは猟犬たちにそう言うと普段は町の人々すら立ち入らない森の奥地へと踏み込んで行きました。

アクタイオンは町の灯が見えない位まで森の奥に来たのです。

「…?」

町の人が立ち入るはずもない深い森の中で人の声が聞こえたような気がしました。

アクタイオンは何かに導かれるように声のした方向へと歩いて行きます。

ガサッと声が聞こえて来た茂みを掻き分けると目の前に突如、光り輝く泉が現れました。

アクタイオンは驚きの余り立ち尽くしてしまいます。
彼が驚いたのは神々しい泉を発見したからではなく、その泉で水浴びしていた人物に驚いたのです。

ここは月と狩猟の処女神アルテミス専用の水浴び場でした。

水浴びの時間であったので女神は何も身に着けていませんでした。
目が合うアクタイオンと女神アルテミス。

アクタイオンは慌てて目を手で覆いました。
彼は見たものを覚える暇すらなありませんでした。

しかしアルテミスは神でもなく森の動物たちでもない一人の人間の男に間違いなく『見られた』と感じ、森の中に女神の絶叫がこだましました。

この後に自分の身に起こる事を予想できたアクタイオンは、とっさにこの場から逃げ出そうとしました。

しかし女神の怒りはそれを許しませんでした。
逃げ出そうとしたアクタイオンをアルテミスは鹿の姿に変えたのです。

アクタイオンは自分が鹿の姿にされてしまった事に絶望しながらも何とか女神の手から逃れようと必死に森の外へ逃げようとしました。
自分の周りには人の追って来る気配はありませんでした。

どうやら女神アルテミスは鹿に変えただけで追って来ないと安堵したアクタイオンは歩を緩めました。

すると何十頭という犬たちが一斉にアクタイオンに飛び掛かり、アクタイオンは断末魔の悲鳴を上げる暇すら与えられずに体中を食いちぎられて絶命してしまったのです。

この犬たちこそがアクタイオンの命令には絶対に逆らわない相棒の猟犬たちだったのです。
逃げ惑う鹿を見て反射的に攻撃をしてしまった絶対の信頼で結ばれていた猟犬によってその命を絶たれたのでした…。

女神の怒りを恐れるべきか…
カドモスの血を引くものには例外なく無惨な最期を与える軍神アレスの呪いを恐れるべきか…



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