『王様の耳はロバの耳』


小アジアのフリギア国にミダス王がいました。

フリギアは薔薇で名高い国でミダスも素晴らしい薔薇園を持っていました。

ある日、その薔薇園に[酒の神]ディオニソスのお伴をして酔っ払ったサチュロスの仲間シレヌスが迷い込みました。
サチュロスは山羊の様な角と足を持つ道化者で踊りが好きな野山の精で

太目の容姿の老人シレヌスが酔っ払って木陰で寝ている姿を見たミダス王の家来達は面白がりました。
シレヌスの首に薔薇の花環を掛けり、花冠を被せてミダス王の元に連れて行きました。

シレヌスの滑稽な格好に大喜びしたミダス王は面白がって彼を10日間王宮で過ごさせてからディオニソスの所に連れて行きました。

ディオニソスはシレヌスが帰ってきた事を喜んでお礼に願いを何でも叶えてやろうと言いました。

欲張りで何よりも黄金好きなミダスは頼みました。

「手に触る物が何でも黄金に変わるようにして下さい」

ディオニソスは笑ってミダスの願いを聞き入れました。

しかしミダスは自分の願い事がどれほど馬鹿げていたかを自らの身で体験して後悔する事になるのです。

ミダスが食事をとろうとすると手に取った物の全てが黄金に変わってしまうのです。
食べ物や飲み物の何もかもが黄金になってしまい飢えと渇きに散々、苦しんだミダスはディオニソスの元へ駆け込んで願いを取り消して欲しいと頼むとディオニソスが答えました。

「パクトロス川の源で身を洗うがいい」

ミダスは言われたようにしました。
その事からパクトロス川の砂には金が混じっているそうです。

ある時、ミダス王はアポロンとパ−ン(山羊座)が音楽家としての腕比べをした時に審判官として立ち合いました。

パ−ンは伝令神ヘルメスの子供です。
父ヘルメスはゼウスの子で生まれてから6日で若者になりました。

ヘルメスは羊飼いの少女と恋に落ちて2人の間には山羊の様な頭に角が生えて足も山羊の足で顎には長い髭が生えた我が子をオリンポスへ連れて行くと神々は皆、面白がってその子をパ−ンと名付けました。

パ−ンはやがて父に連れられてアルカジアに行き、そこでずっと家畜の番をして暮らしました。

パ−ンは父ヘルメスに似て音楽好きでシリンクスという笛は彼が川岸に生えているアシを切って作った物です。


ミダス王にはパ−ンの吹く素朴な笛の方がアポロンの竪琴よりも気に入ったのでパ−ンを勝者に選びました。

「お前の耳はなんて馬鹿な耳だ!
そんな耳はロバの耳になるがいい!


アポロンは怒りミダス王に呪いをかけました。

たちまちミダス王の耳は毛だらけになり、突き立ったロバの耳と化しました。

その耳を恥じたミダス王は常日頃から、特別に作った帽子を被って隠し続けたのです。

しかし理髪師にだけは隠す通す事は出来ません。

「決して、この秘密を口外しないように」

ミダス王は理髪師に固く口止めします。

理髪師はミダス王に決して他言しないと誓約していたものの、内心では秘密を誰かに話したくてウズウズしていたのでした。
しかし、口外したなら命はありません。

我慢出来なくなった理髪師は野原へ行って穴を掘りました。

「王様の耳はロバの耳!」

理髪師は穴の中に叫ぶと重荷を下ろして、そっと穴を埋めて帰りました。

春になると、その場所には沢山の葦が生えました。

そして町では
「王様の耳はロバの耳」
という噂が流れ始めます。

森の中の葦が風にそよぐ度に葦笛となって
「王様の耳は、ロバの耳」
と競うように囁いていたのです。

王の秘密は風のひと吹きでさらけ出されて、理髪師は捕らえられて処刑されそうになります。

しかしかつてアポロンから受けた慈悲を思い出したミダス王は処刑を取りやめて理髪師を放免しました。

アポロンはミダスの行いを善しとして王の耳を元の人間の耳に戻してあげました。



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