ヘスペリデスの園と黄金の林檎

ヘスペリデスとは(黄昏の娘たち)という意味で山や川や森や谷を守るニンフ(妖精)をいう。

ヘスペリデスの園にはヘラの果樹園がありヘスペリデスは果樹園に植えられた黄金の林檎の木を世話して明るい声で歌を歌っている。
この黄金の林檎の木はゼウスとヘラの結婚の祝いとして大地の女神ガイアが贈ったものでした。

しかしゼウスが黄金の林檎を採っては、恋の贈り物としてばらまいてしまう為にゼウスの手が届かない様にアトラス山の頂にある果樹園にヘラが移し植えたのでした。

ヘスペリデスは多くが日没に関係した名前があります。
cヘスペリア
(夕方の女)
cアイグレ
(明るい女)
cエリテュイア
(赤い女)
全く異なる説として
eリバラ
(柔らかい光)
eクリュソテミス
(黄金の秩序)
eアステロペ
(閃光)
eヒュギエイア
(健康)

黄金の林檎の木の世話をしているヘスペリデスが黄金の林檎を盗んでいる所を見つけたヘラは百の頭を持つ竜ラドンに木の周りをグルグル巻き付かせて番をさせる事にしました。

「ヘスペリデスの園」と黄金の林檎は
Vアタランタの結婚
Vペルセウスのメドゥーサ退治
Vヘラクレスの12難題の11番目の物語
などで黄金の林檎が登場します。
ヘラクレスが持ち帰った黄金の林檎は後にアテナがヘラクレスから受け取って再び元の場所に戻します。
ヘラの持ち物を本来の場所以外の何処に置く事も違法とされていたからです。


V[黄金の林檎]に纏わる神話を紹介します。

アルカディア王イアシオスの娘アタランタは女とも男とも言えない中性的な顔でした。
彼女はカリュドンの猪退治の後に祖国アルカディアの父の元に帰っていました。
イアシオス王は頻りにアタランタに結婚を薦めました。
しかし彼女は一向に承知しません。

アタランタが承知しないのには理由がありました。
彼女は神託で運命を予言されていたのです。

「アタランタよ
お前は結婚しない方が良い。
結婚すると身を滅ぼすぞ」

アルテミスを崇拝するアタランタは神託を聞いてから益々、色恋には目もくれずに遊猟にふけってばかりいました。

それでも、そんな彼女を妻にしたいという申し出が後を絶ちませんでした。

「アタランタよ
わしには後継ぎの息子がいないのだ。
どうかお前の好きな相手を夫に選んで2人でこの国を治めてくれ。
そうすれば何の心配もなく死ねる」

そんな父の言葉に頑ななアタランタの心もさすがに揺らぎました。
アタランタは求婚者達に1つの条件を出しました。

「私と走り比べの競争をして勝った者の妻になりましょう。
しかし負けた人は罰として死んでもらう事になります」

そんな手厳しい条件にも関わらずアタランタに勝負を挑む者は沢山おりました。

足に自信があり、この素晴らしい冒険を成し遂げて幸福を掴もうとする者が続々と集まりました。
ヒッポメネスという男が審判員に抜擢されました。

「馬鹿な。
一人の女の為にそれ程までに向こう見ずな冒険をするという事があるものか!」
当初そう思っていたヒッポメネスは後にアタランタに横恋慕してしまいます。

ヒッポメネスは勝負を見守りながらも男達が皆、負ければ良いと思いました。
誰かアタランタを追い越しそうな者がいると妬ましくなりました。

そんな中アタランタは自慢の足でグングン進みました。
彼女の走る姿は一段と美しいものでした。

ほどなく競争者は全て負かされて無謀な挑戦を試みた男達は皆、アルカディア国の従者の手で容赦なく殺されました。

審判のヒッポメネスはそんな結果を見てもビククともせずにアタランタに挑戦を申し出ました。

「あんなのろま達に勝ったって自慢になりはしない。
今度は私が相手をしよう」

アタランタは憐れむ様な顔つきでヒッポメネスを見ました。

(別の神話ではアタランタの従兄弟のメラニオンがアタランタに惚れて走り比べに挑戦)

見物人達は口々に言いました。。

「どんな神様が、あんな若い美しい人をそそのかして命を捨てさせるのだろう。
私はあの人が気の毒だ。
あの人が勝てばいいのに・・・」

ヒッポメネスはアフロディテに祈りを捧げていました。

「アフロディテよ
お助け下さい。
私にこんな事をさせるのも貴女なのでしょうから・・・」

アタランタが愛と結婚を馬鹿にしている事に立腹していた事もあって、アフロディテはヒッポメネスに肩入れしました、

アフロディテの神殿のあるキプロス島の花園には黄色い葉に黄色い枝に金色の果実をつけた1本の樹木がありました。
その樹木からアフロディテは3つの黄金の林檎を取って誰にも判らない様にヒッポメネスに手渡して、その林檎を使う方法を教えました。

やがて競争の合図が与えられました。
ヒッポメネスとアタランタはスタート地点から勢い良く駆け出しました。
2人の身軽さは川の上でも波打つ穀物の上でも飛べそうな程でした。
見物人は歓声を上げてヒッポメネスをはやし立て応援しました。

ヒッポメネスは途中で喉の渇きを覚えましたがゴ−ルは遥か遠くでした。
そこでヒッポメネスは黄金の林檎を1つ放り投げました。
驚いたアタランタは黄金の林檎拾おうと足を止めました。

その隙にヒッポメネスはアタランタを追い越すと歓声が八方から上がりました。
しかしアタランタは勢いを盛り返して直ぐにヒッポメネスに追いつきました。

ヒッポメネスは2二つ目の黄金の林檎を投げました。
またアタランタは立ち止まったものの直ぐに彼に追いつきました。

ゴ−ルが間近になり残るのはただひとつの運だけです。

「女神よ御身の賜物に幸あれ!」

ヒッポメネスはそう言って最後の黄金の林檎を投げました。
それを見てアタランタは一旦躊躇します。

アフロディテは彼女の気を林檎に向けさせ林檎を拾いに行かせ事でヒッポメネスに抜かせました。
アタランタはヒッポメネスを追いましたが負けてしまいました。

こうしてヒッポメネスとアタランタは結婚する事になりました。
しかしアフロディテへの御礼を忘れていました。

アフロディテは恩知らずを憤って2人にわざとゼウスの母である女神レアに無礼を働くようにしました。
権威ある女神レアは自分に無礼を働いた2人を決して許しませんでした。

レアはヒッポメネスとアタランタから人間の姿を奪い取って、その心持ちに似た獣の形に変えてしまいます。
アタランタは女獅子。
ヒッポメネスは牡獅子に変えられました。

レアはその二頭の獅子に自分の車を引かせました。
彫刻や絵画の中の女神レア像にはその獅子が見られます。


(アタランタと従兄弟メラニオンの話しでは2人はアルカディア王と妃として幸せに暮す)

アタランタのようにマラソンの勝敗で結婚相手を決める事を[婚姻の神]ヒュメナイオスから<ヒュメンの競争>と呼びました。


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