携帯ラブロマンス小説
家族虫
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 主人公洋一は極端に気の弱い郵便局員。ぼそぼそと休憩室で寂しく自作の朝食を食べている。鉄道雑誌を見ながら。趣味が鉄道なのである。年齢は32歳。
 すると同僚で友人の大介が洋一を合コンに誘う。大介は年下でしっかりした若者だが、なぜか洋一とは気が合っている。洋一は合コンなどする柄ではないと断るが「人数が足りないのでどうしても……」と大介に頼み込まれ人の良い洋一は了解してしまう。
 洋一は押しの弱い自分の気弱な性格をなげく。「合コンなんかしても女の子に気のきいた話もできずさびしい思いをするだけだろうなあ」と憂鬱になる。
 ところが。「すっごいおもしろい。鉄道に詳しいなんて尊敬しちゃう!」となぜか合コンに来ていたひとりの女の子に大受けしてしまう洋一。洋一も大介も意外ななりゆきに目を白黒させている。会場は激安チェーン居酒屋の個室。女性の名前はリサという22歳のピチピチの美人OL。
「鉄道の話がこんなに受けるなんて信じられないよ」と洋一。
「だって毎日乗っているものだし関心があって当然でしょ」というリサ。
 そういうものなのか……も釈然としないながらもなんとなく納得する洋一。そして驚くべきことに洋一は生まれて初めての――そしておそらく最後の――お持ち帰りをしてしまう。翌朝童貞を失った洋一は衝動的にプロポーズをしてしまう。ふたりはめでたく結婚する。
 
 最初は幸せな結婚生活が続いた。身のほど知らずな美人嫁をもらったと思っていた洋一は、好きな鉄道にかける時間を減らして仕事に打ち込む。「これからは一人前の大人として生きるぞ!」そのがんばりを見てみんなの洋一を見る目が変わる。充実する洋一。
 ところが……。ある日帰ってくると家にリサの姉夫婦がいる。突然土下座して洋一に頼み込むふたり。
「アメリカの金融危機の影響で派遣社員をクビになってしまった。それで家賃を払えずマンションを追い出されてしまった。仕事が見つかるまで同居させてほしい」と。
「同居たってワンルームのアパートですよ」と洋一は驚いて言うが姉夫婦の必死の頼みを断りきれない。相変わらず押しに弱い洋一。しかし親戚を助けることでさらに一歩大人の階段を上がったような気がして誇らしく思う洋一。なぜか不気味にニヤリと笑う姉夫婦とリサ。
 ところが彼らはまったく仕事を探しているようすがみえない。それどころかある日洋一が帰ってくると豪勢にも出前で生寿司をとりむさぼり食っている。
「仕事がないのに贅沢ですな」と小姑よろしく小言を言う洋一に義兄の涼太「洋一さんも早く食べないとなくなるよ」とまったく気にもしないようす。洋一が不快な気分になっていると立ってまっていた出前持ちが代金を洋一に請求する。
「俺が払うのか?」
「だって金がないから当たり前だろ?」開き直って言う涼太。そのうえ恫喝するようにニラミをきかせ「それとも親族が無銭飲食で逮捕されても良いというのか!」
「す、すみません。払います」相変わらず押しに弱い洋一。ニヤリを笑う涼太、義姉のアケミ、リサ。
 郵便局。元気がない洋一。心配した大介が声をかけると。
「一人前の大人になるのはたいへんなんだよ……」とよくわからないセリフをボソリとつぶやく洋一。しかし同僚たちは「一〇も若い美人嫁をもらってお疲れさんなんだろ?」といやらしく笑う。
 憂鬱な顔で洋一が帰るとこんどは姑夫婦が転がり込んで来ている。しかも彼らずうずうしくも酒盛りしている。またまた土下座する姑夫婦。「年金記録のミスからあてにしていた年金がもらえず都営アパートを追い出されてしまった」と同居を泣いて頼む。夫はボケて寝たきり。
「で…でも」とためらう洋一にリサがいつになくきつい口調で言う。「まさか病気のお父さんをかかえたお母さんを寒空に追い出す気ではないでしょうね!」
「も…もちろんそんなことはしないよ」とまたOKしてしまう洋一。ニヤリと不気味に笑う涼太、アケミ、リサ、姑、舅、ペットのハムスター。
 しかも趣味の鉄道模型や鉄道のグッズがすべて捨てられてしまっている。リサに聞くと部屋が狭いから捨てた、とさも当然のように言う。ブチ切れそうになるのを必死にこらえる洋一。鉄道グッズがあった場所にはハムスターのカゴが置いてあった。憎々しげにハムスターをにらみつける洋一。そんな洋一に涼太は酒を勧める。
「良い酒ですよ!」と言われて飲むとうまい。しかしよくボトルを見ると自分が大切にしまってあった高級なバーボンだった。「チキショー、飲んでやる!」洋一の良い飲っぷりに彼らはヤンヤの喝采。
 その夜。泥酔して雑魚寝している洋一は妻だと思って義姉の色っぽいアケミを抱いてしまう。(いつもより尻がでかいと思った!)しかし他のみんなが気がつかなかったのと、アケミのまんざらでもないようすに、これくらいの役得があってもいいよな、と思う洋一。
 居酒屋で大介に愚痴る洋一。正義感の強い大介は「そいつらは最初から働く気なんてないんだ。寄生虫だよ。気の良い洋一さんを骨までしゃぶるつもりだよ」と憤慨。
 酔って気の大きくなった洋一は「キッパリと奴らに出て行け、と宣言してやる!」とメートルをあげる。帰りの会計で金が足りなかった洋一はコンビニのATMで自分の預金(五〇〇万円)がぜんぶ引き下ろされてることに気が付く。
 家に帰って激怒して妻のリサを問いつめる。
「だって夫婦なんだから夫の金はあたしの金。引き下ろしたって良いじゃない。あなた、あたしを愛してないのね!」と泣き出す嫁。ついいつもの調子であやまりそうになったが今日は毅然とふるまう洋一。「愛は関係ないだろ。五〇〇万の大金なんだから相談せずに引き出されたら怒って当然だろ」
 ところがそれを涼太が怒鳴りつける。「リサに金をおろすように言ったのは俺だ。今の金融不況の世の中、銀行なんていつツブれてもおかしくないからな。預金は現金で手元に置いておくのが確実。その親切心がわからないのか、ばかものめ!」またもや謝りそうになるとこをぐっとこらえる洋一。「そんな屁理屈はなっとくできませんね。あなたたちが俺に寄生虫のようにたかろうとしてるのは、バレバレなんですよ! 今すぐこの部屋を出て行ってもらいましょう!」キッパリと言い切った自分をほこらしげに思う洋一。「ハムスターも連れて」
 ところが彼らは奥の手を出してきた。
「出て行けということはリサとも離婚をするということで?」と涼太。
「も…もちろんだとも」
「それなら親族関係ではなくなるから、もう洋一さんにがまんする義理はないってことだな?」と彼らは洋一がアケミをレイプしたことを警察に告発すると言い出す。居候している立場の弱い身なのでアケミが犯されても必死のこらえていたが、もう我慢ならぬと! とまるで被害者のようなことを言い出す。実は彼らはふたりがセックスしてることを気づいていたらしい。罠にはまったと気が付いた洋一だが手の出しようがないので謝る。「すみませんでした、お願いですから。好きなだけ同居してください!」と泣いて頼む。「まあ同居してほしいというなら、しかたがない、しばらく居候してやっかな!」と涼太。「生活費は洋一さん持ちで」と勝ち誇ったように言うリサ。彼らとハムスター、ニヤリと笑う。悔しくてたまらない洋一。
 寄生虫家族との戦いに敗れた洋一は荒む。郵便局の窓口で仕事中、ついモンスターカスタマーの客を怒鳴りつけてしまう。当然上司の総務主任に怒られたが怒りのあまり彼を殴ってしまう。「やってしまった……」途方に暮れる洋一。それをこっそり見ているリサ。
 しばらくして。居酒屋で大介に愚痴る洋介。総務主任が刑事告発も辞さないと息巻いているので、洋一が自主的に辞表を出すことで事態を納める方向になりそうだ。クビが決まってやけ酒を飲むふたり。「これもすべてあの寄生虫どものせいだ」と言う洋一に、意外なことに大介がしんみりと彼らにも良い点があると告げる。実は大介は親がなく施設で育ったのだ。そのために子供のときから『家族』というものにあこがれていた。だから確かに人並みはずれてずうずうしい一家だが、それでも洋一さんに帰る家族があることは確かだから彼らの存在にも良い点あることを認めるべきではないかと。「つまり排除できないのならば、その良い面を見て共存するしかない」と。大介の逆転の発送に共感して感動する洋一。さすが大介は苦労しているだけあって考え方が大人なんだなあ、と幼い自分の考え方を恥ずかしく思う。
 酔って帰る洋一。洋一の頭の中ではずうずうしくもおせっかいで人情味のある家族が、失業した洋一に同情して慰めてくれる……という妄想でいっぱいだ。『これからは俺がかわりに働いて洋一さんを養ってあげるよ!』というありえない涼太の発言まで聞こえる。
 ところが部屋に入ろうとしたら鍵が取り替えられていて入れない。ドアを叩いても入れてくれない。彼らは洋一がクビになったことを知り「金を稼いでこないなら、もうお前なんて用はないわ!」と二階の窓から高笑いする。一見幸せそうな家族団らんをしているように見える彼ら寄生虫一家。しかしその一家の中に洋一は入ることができないのだ。「もういやだー、うわーんうわーん」と子供のように道ばたで泣き出す洋一。近所の人が怪訝そうに洋一を見る。洋一は涙枯れるまで泣き続け、五日目の夜に息絶えたという。
 
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