なのは小説

第二章
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 闇の書。アレが起動して俺の人生を破壊してしまうまでの時間は、それまで積み上げてきた時間に反比例するかのように一瞬だった。
 生まれてから、アレの声は聞こえていて、どういうものかもすぐに教えられた。つまり俺は生まれながらにして呪われていたんだ。アレの存在が知られれば、管理局に引き渡されるか、体面のためには何処とも知れない場所で置き去りにされる。
 それが分かっていたから、俺は全てをひた隠しにし、両親および全ての人に好かれようと必死だった。
 全ての期待に応えた。完璧な実績を残した。全ての回答を正解で埋めてきた。努力もした。卑怯なこともした。周囲の全てを蹴落として、全てを手に入れてきた。闇の書というマイナスを打ち消すほどのプラスが必要だった。
 一年中雪国であった俺の祖国で大人の庇護がなければ、凍えて死んでしまうのは目に見えていたし。

寒いのは嫌だ。
 
 そして、一度だけ失敗したあの時、玄関に放り出されたあの時、身を切るような父親の目を二度とは見たくなかった。

俺に命令をくれ。

闇の書なんて知らない。起動なんてしていない。俺のじゃない。

期待には全て応えてみせるから。

お前らなんて知らない。騎士だかなんだか知らないが、俺の前から消えてくれ。

俺を見捨てないでくれ。

消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ。

俺を置いていかないでくれ。

父から頂いたブリューナクを振り上げる。
キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ。

寒いのは嫌なんです。

命令をください。僕を捨てないでください。

 見慣れたはずの車が、今はもう、俺とはなんの関係もない車が走り去っていく。それを見送らないまま、上着を引き寄せて這いずり廻り、見つけた煉瓦造りの壁面に背中を預けた。そして膝を抱え、歯が鳴らす不快音を聞きながら急かされるように落ちる雪を目で追う。寒さは俺の体温を削ぎ落としていくくせに、体の中心はカッと熱を帯びていた。憤怒か、哀切か、後悔か。多分その全てを置き去りにして、ただ俺は次の命令を待っていたのだろう。熱を帯びた体はいつでも命令を実行できるのに、日が暮れてしまうまで、熱さに震えていた。

そしていつしか、
下を向けばそこに
俺の影ができていた……。

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