なのは小説

第一章
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 眠りから覚醒すれば、目の前に広がる見慣れた天井。他人の家の天井を見慣れた、と形容できるようになっていることを少し察して欲しい。まぁ名義的には俺もこの家、八神家の一員ではあるのだが。と、くだらないことを考えていたせいで、見た夢を忘れてしまった。
 求愛してくる布団を無下に跳ね除け、俺こと八神真尋はカーテンを開ける。太陽がいつもより高い位置にあるのは、今日が8月に入ったからか、それとも俺が寝すぎたからか。  
 時計を確認、いつもより4時間遅い起床。つまり、時計の針は10時を指しているというわけだ。
 俺は一つ嘆息し、寝間着を着替える。昨日も結構遅くまで闇の書のページ稼ぎを行っていたとはいえ、寝坊したのは、ここに来てから初めてだ。
 ……そういや、ここに来て今日で8ヶ月だな。だからどうというわけではないが。
 寝すぎで少し痛い頭を引き連れて部屋を出て、階段を危なげに下りる。居間からはテレビの音が聞こえてきた。
「おはよう」
 ソファに座っていたこの家の家主、八神はやてが声をかけてきた。少女が俺の姿を確認した後、隣の車椅子に乗り込もうとしたので、それを助ける。ついでに、おあようと気の抜けた挨拶を返しておいた。
「わ、めっちゃ眠そうやね。朝ごはん食べる?」
「喰う」
 俺は少女の姿を目で追いながら、テーブルのいつもの席に座る。そのままぼんやりと眺めながら、朝ごはんが出てくるのを待つことにした。なんというか、思いっきりニートにしか見えないのだが、眠いのでしょうがない。多分、今手伝えば皿を割る。
 明日はいつもどおり手伝おう。そう心に決めたところで料理が出てきた。
 皿は4つ。朝飯を温めなおしたものだろう。それでも上手いことを実感しつつ箸を進める。
 俺がこくこくと頷きながら食べていると、不意にはやてと目が合った。彼女はまるで子供を見守る母親のような笑顔をしている。それ見てなんとも気まずいような、ばつが悪いような、名状しがたき気持ちになった。それを隠すように、とりあえず言葉を投げかけてみた。
「さ、最近……調子はどうだ?」
 父親が年頃の娘に間を持たせるためによく口にする定型句になってしまったことを許して欲しい。コミュニケーション能力は皆無なのだ。
「う〜ん、特に変わらんよぉ。最近、誰かさんとあまり散歩に出てないってくらいかなぁ」
「う、そうだったな」
 俺がこの家に来た経緯。状況は複雑だが、言葉にするなら簡単だ。
 一月のある日、八神家の近くで倒れていた俺をはやてが発見、気を失っていた俺を家に上げてくれた。(余談だが、車椅子にもかかわらず子供一人をなんとか家に上げたということを聞いて、俺の高感度は有頂天に達したのだ)そして記憶喪失ということになっている俺を家族にしてくれて、記憶探しのために二人で散歩に出かけていた。客観的に見れば、何が楽しいのかという感じだが、俺達はほとんど毎日どこかに行っていた。
 はやては、寂しかったのだろうか。
 知ったような口など利けないが、なんとなく俺も分かる気がしていた。だから、二人の時間はあんなにも楽しかったのだろうか。例えるならそれは鎮痛剤のような時間だった。
「じゃあ、今日は一緒に出かけよう? 今日は暇そうな気がしてきた」
 だが、そんな時間は得てして永続しない。
 あの忌まわしき闇の書が起動したからだ。
「ふふ、ほんなら今日は何処へ行こうか?」
 本当ならすぐにでも闇の書のページを集めたかったのだが、あんなもののために日常を乱したくなどない。それに、シグナム達がいないということは、つまりそういうことだ。
「どこでもいいよ」
 最近は、なかなか話す機会が少ない。俺の奇行も目立つようになってきたし、しばらくははやてと過ごすのが吉かな。
 はやてを連れて家を出る。夏の日差しは全くもって容赦がないので、日傘で対抗。
 さて、何処に行こうか……。


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